泰道とアースハート
当事務所が事務局を務めています、セントマザー・アースハート被害対策弁護団には、
まだまだ被害相談が続いております。
先日ご紹介しましたが、西岡が執筆しました
消費者法ニュース119号(2019年4月発行) ニセ科学―科学を装った消費者被害―
に掲載されました「泰道とアースハート」の記事をご紹介します。
「泰道とアースハート」 弁護士 西 岡 里 恵
1 エセ科学を利用した宗教団体
エセ科学は、医学分野では、生命への危険を深刻な被害を及ぼしているほか、宗教を名目として他者(主に信者)の権利を侵害する宗教トラブルにおいて、以前からよく利用されている。
検証可能な事実を対象とする科学と、信仰の理由をあえて求めたりはしない宗教とでは相容れないため、宗教団体でエセ科学を利用するということは難しいとも思えるが、宗教において、理由をあえて求めたりはしないあいまいな点が多いこともあってか、その被害は後を絶たない。
以下では、エセ科学を利用して多くの被害者を出している泰道、アースハートについて紹介する。
(1) 泰道
ア 泰道とは
泰道の正式名称は、「健康を守る会泰道」であり、昭和61年に開俊久を会長として創設された法人格なき社団である。泰道は、「生命の作用」に基づく「手かざし」などにより「病気が治る。痛みがとれる。幸せになれる」などと称し、被害者から金員をだまし取ってきた。
泰道入会後は、黎明塾などという講座に参加させられ、さらにその他の集会等にも精力的に参加させられる。「病息を直し、健康・幸福になるためには、証行・覚生を実践しなければならない」とされており、会員らは、寸暇を惜しんで「証行」(生命学では、「生命が各人の中に実在していることを証明する行為」と定義)、「覚生」(生命学では、「自己の生命に局部的に強い刺激感・熱感のついた所を浄化する行為」と定義しているが、実際には、証行を行った相手方が泰道入会を決意し会員となることを「覚生」と呼んでいた)をさせられる。
すなわち、泰道は、「病気を治すためには、証行・覚生を実践しなければならない」と教え込み、会員は、新たな会員獲得のために勧誘(証行)を繰り返し、会員獲得という結果(覚生)を出すことを追求せざるを得ず、結果的に会員拡大のために翻弄する羽目になるのである。
イ 泰道のエセ科学「生命の作用(手かざし)」
泰道は「生命の作用で、物質・細胞等を変化させることもできる。酒等の味を変えることもできる」と広言し、泰道が発刊していた新聞や書籍には、「病気とは必ず原因があり、それを解明することにより絶対に治る」等と具体的な治せる病名等も掲載していた。
これらの事実を信じ込ませるため、泰道は、開俊久が「医学博士・哲学博士・深層心理学博士の資格を有している」「アメリカ合衆国元副大統領モンデールなど米国要人と親交がある」等経歴詐称を行っていた。
ウ 泰道の宗教化
泰道は、その創設からしばらくの間は、「泰道は宗教とは関係がない。生命の作用は学問である」と宗教性を積極的に否定し、かつ、科学性を強調して会員勧誘を行っていたが、平成4年10月に、中山身語正宗熊本東教会という宗教法人を手に入れ、「法珠宗宝珠会」と名称変更し、泰道の傘下におさめ、結局、平成9年3月に泰道は解散し、法珠宗宝珠会に一本化された。
エ 泰道に対する裁判と違法判決
泰道に対しては、平成8年、泰道被害者対策弁護団(福岡・佐賀・長崎)は、開俊久をはじめとする泰道の理事19名と関連法人9法人を被告として不法行為に基づく損害賠償請求を各地方裁判所に提訴した。
平成13年9月26日、長﨑地方裁判所は、手かざしの効果(生命の作用)を「真実として採用するには疑問がある」と否定し、「泰道は金員獲得の目的をもって社会的に相当でない方法により会員を勧誘し、その結果、入会者から多額の金員を獲得したものであり、泰道のこのような会員の勧誘から金員獲得に至る一連のシステムは社会的相当性と著しく逸脱するものであって違法というべきである」と判示し、次いで佐賀、福岡でも泰道の責任を全面的に認める判決が出た。泰道は控訴したが福岡高裁で棄却され、上告も受理されなかった。
オ 違法判決後の状況
最高裁判所で違法判決が確定した後も、宝珠宗宝珠会の活動は続いている。「生命の作用」の教義は変わらないものの、科学的なものだという姿勢はとらなくなり、宗教団体として存続し、佐賀を本拠地として主に九州各地に被害者を出し続けている。
(2) アースハート、セントマザー
ア アースハートとは
株式会社アースハートは、上記泰道の幹部として活動をしていた野中邦子が平成9年頃独立して分派活動を行い、平成12年3月に設立した法人である。同社は、有限会社中部アースハート、NPO法人つくしの会(任意団体つくしの会)、宗教法人ひのもと、社会福祉法人太陽の丘、医療法人太陽の丘等複数の法人格と一体となって活動しており、これらの法人や関係個人を全体として便宜上「アースハート」と表現する。
アースハートは、愛知、九州を特に中心として全国各地で、「講習会に参加すれば、誰でも病気を軽減・治癒する『ハンドパワー』(呼称は、現在は『マインドパワー』に変更)を習得できる」などと謳い、受講生、会員を募る。入会後は、会員以外のものを勧誘し、新たにアースハートセミナーの受講契約を締結させる「覚醒」と称する行為を推奨し、「覚醒」をしなければ病気が治らないなどとしばしば説明し、「覚醒」と病気などの治療を結びつけることによって、病気を治したいといった会員の切実な思いにつけこんで、その者らを通じて新たに会員を獲得していた。
イ アースハートのエセ科学「ハンドパワー(マインドパワー)」
アースハートは、「ハンドパワーで、物質・細胞等を変化させることもできる。酒等の味を変えることもできる」と広言していたが、この味変えについては、テレビ局の取材で、野中邦子が味変えを実践したジュースの糖度が全く変わっていないことが糖度計の数字から明らかになった動画が存在する。
また、アースハートが発刊していた会報(会員に対して毎月発行する冊子)、書籍等には、「病気とは必ず原因があり、それを解明することにより絶対に治る」等と具体的な治せる病名等も掲載し、現役の医師がその効果を宣伝するという手法をとり、ハンドパワーが実在し、病気を治す効果があるということを広言していた。特に、アースハートは、「大阪府立産業技術総合研究所」での実験でハンドパワーが科学的・医学的に証明されたとしてその実験内容を紹介する書籍を発行し、会報にも大きく宣伝していたが、同研究所に調査したところ、単に実験室と脳波計などの機器を貸したにすぎず(利用料を支払えばだれでも利用できる)、同研究所が実験をした事実はないし、実験結果は把握していないことが判明した。
さらに、日本統合医療学会や、日本補完代替医療学会において、会員である医師らがハンドパワーに関する報告を行ったことを大々的に宣伝し、ハンドパワーが各学会において正式に承認されている医学的に正当な施術であるかのように広言していたが、実際には報告、発表内容の正当性等に厳正な審査が行われたわけでもなく、正式に承認されているとはいいがたい状況にあることが判明しているし、定評ある科学・医学の専門雑誌にハンドパワーが取り上げられたと大々的に会報にとりあげたりもしていたが、単に広告料を支払って取り上げてもらう種類の雑誌であったことも判明した。
このように、アースハートがハンドパワーの科学的・医学的根拠として出したものは全てにおいて裏付けがないことが明らかとなり、結局アースハートは民事裁判においても何一つ科学的根拠を証明することはできなかった。
ウ アースハートに対する裁判と違法判決
アースハートに対しては、平成23年12月、アースハート被害対策弁護団(福岡)は、株式会社アースハート、野中邦子外役員1名を被告として不法行為に基づく損害賠償請求を福岡地方裁判所に提訴した。
平成26年3月28日、裁判所は、被告らの主張するパワーについて、「客観的な科学的・医学的な裏付けがない」と明確にその主張を退け、アースハートが虚偽の内容を含んだ詐欺的な宣伝をすることにより各活動を行っていること、「覚醒」などというシステムを用いて、会員に対し、新規会員を獲得しなければ病気が治らないとの強い心理的圧迫を加えることによって各活動を拡大させていること、アースハートの各活動は、泰道のシステムを模倣する形で行われていたものであって、各地裁や高裁において違法と判断された後も継続して行われていたことなどを認定し、アースハートの活動は、有機的に関連した一連のシステムのもとに、セミナーの受講契約という不当に高額の金員を取得することに向けられたものであって、社会的相当性を逸脱したものと判示し、その責任を全面的に認め、アースハートの控訴は棄却され、上告も受理されなかった。
エ アースハートからセントマザーへの事業譲渡
アースハートは、平成26年7月に関係者が株式会社セントマザーを設立し、セミナー等のハンドパワー関連事業の一切をセントマザーに事業譲渡し、その後はセントマザーとして活動しているが、野中邦子がパワーを伝授する最高の力を持った立場の者のままで何ら変わっていない。
ただ、アースハートは、創設時には受講パンフレットに明確に「宗教ではありません」と記載していたのであるが、途中から関連法人に宗教法人を取得したこともあってかその文言は消され、さらに現在のセントマザーの会報では、野中邦子は「なぜにマインドパワーの施療はあらゆる病に効果的なのか、一言で言うならマインドパワーとは全人的(ホリスティック)な医療である」などと述べ、その内容は非科学的なものになった。
オ 違法判決後の状況
アースハートと同様の活動を「セントマザー」として依然として続けており、被害者も後を絶たない。セントマザーでは、「ハンドパワー(マインドパワー)」で病気が治るなどの効果、説明は変わらないものの、それが科学的・医学的根拠のあるものだという姿勢は薄れているようである。
2 エセ科学(医療系)の問題
エセ科学を利用した泰道、アースハートは、人々の健康でありたいという願望、他人を健康にさせてあげたいという希望、あるいは自分自身や家族の病気からの解放の切望につけこみ、実体のない概念である「生命の作用」「ハンドパワー(マインドパワー)」をあたかも科学的根拠のあるもののように見せかけ、その習得のための多額の入会費用、受講料等の金員を詐取するという手法で多大な被害を生み出してきた。病気、傷害を持つ人たちの「健康になりたい、病気を治したい」という純粋な願いに付け込んで利用し、貴重な時間を奪い、多額の金銭をつぎ込ませるだけでなく、西洋医学を否定して適切な医療を受ける機会を奪い、果てには生命の危険を招くことがあるので極めて深刻な問題である。
泰道もアースハートも、エセ科学を発端として大々的に会員獲得を行い、民事裁判でも最高裁判所で違法判決が確定し、その科学的・医学的根拠は何ら証明できなかったのであるが、現在はその路線を科学から非科学に変更し(変更せざるを得なかったのであろう)、それでも被害が根絶できない現状は非常に悩ましく、対策に頭を抱えているところである。
まだまだ被害相談が続いております。
先日ご紹介しましたが、西岡が執筆しました
消費者法ニュース119号(2019年4月発行) ニセ科学―科学を装った消費者被害―
に掲載されました「泰道とアースハート」の記事をご紹介します。
「泰道とアースハート」 弁護士 西 岡 里 恵
1 エセ科学を利用した宗教団体
エセ科学は、医学分野では、生命への危険を深刻な被害を及ぼしているほか、宗教を名目として他者(主に信者)の権利を侵害する宗教トラブルにおいて、以前からよく利用されている。
検証可能な事実を対象とする科学と、信仰の理由をあえて求めたりはしない宗教とでは相容れないため、宗教団体でエセ科学を利用するということは難しいとも思えるが、宗教において、理由をあえて求めたりはしないあいまいな点が多いこともあってか、その被害は後を絶たない。
以下では、エセ科学を利用して多くの被害者を出している泰道、アースハートについて紹介する。
(1) 泰道
ア 泰道とは
泰道の正式名称は、「健康を守る会泰道」であり、昭和61年に開俊久を会長として創設された法人格なき社団である。泰道は、「生命の作用」に基づく「手かざし」などにより「病気が治る。痛みがとれる。幸せになれる」などと称し、被害者から金員をだまし取ってきた。
泰道入会後は、黎明塾などという講座に参加させられ、さらにその他の集会等にも精力的に参加させられる。「病息を直し、健康・幸福になるためには、証行・覚生を実践しなければならない」とされており、会員らは、寸暇を惜しんで「証行」(生命学では、「生命が各人の中に実在していることを証明する行為」と定義)、「覚生」(生命学では、「自己の生命に局部的に強い刺激感・熱感のついた所を浄化する行為」と定義しているが、実際には、証行を行った相手方が泰道入会を決意し会員となることを「覚生」と呼んでいた)をさせられる。
すなわち、泰道は、「病気を治すためには、証行・覚生を実践しなければならない」と教え込み、会員は、新たな会員獲得のために勧誘(証行)を繰り返し、会員獲得という結果(覚生)を出すことを追求せざるを得ず、結果的に会員拡大のために翻弄する羽目になるのである。
イ 泰道のエセ科学「生命の作用(手かざし)」
泰道は「生命の作用で、物質・細胞等を変化させることもできる。酒等の味を変えることもできる」と広言し、泰道が発刊していた新聞や書籍には、「病気とは必ず原因があり、それを解明することにより絶対に治る」等と具体的な治せる病名等も掲載していた。
これらの事実を信じ込ませるため、泰道は、開俊久が「医学博士・哲学博士・深層心理学博士の資格を有している」「アメリカ合衆国元副大統領モンデールなど米国要人と親交がある」等経歴詐称を行っていた。
ウ 泰道の宗教化
泰道は、その創設からしばらくの間は、「泰道は宗教とは関係がない。生命の作用は学問である」と宗教性を積極的に否定し、かつ、科学性を強調して会員勧誘を行っていたが、平成4年10月に、中山身語正宗熊本東教会という宗教法人を手に入れ、「法珠宗宝珠会」と名称変更し、泰道の傘下におさめ、結局、平成9年3月に泰道は解散し、法珠宗宝珠会に一本化された。
エ 泰道に対する裁判と違法判決
泰道に対しては、平成8年、泰道被害者対策弁護団(福岡・佐賀・長崎)は、開俊久をはじめとする泰道の理事19名と関連法人9法人を被告として不法行為に基づく損害賠償請求を各地方裁判所に提訴した。
平成13年9月26日、長﨑地方裁判所は、手かざしの効果(生命の作用)を「真実として採用するには疑問がある」と否定し、「泰道は金員獲得の目的をもって社会的に相当でない方法により会員を勧誘し、その結果、入会者から多額の金員を獲得したものであり、泰道のこのような会員の勧誘から金員獲得に至る一連のシステムは社会的相当性と著しく逸脱するものであって違法というべきである」と判示し、次いで佐賀、福岡でも泰道の責任を全面的に認める判決が出た。泰道は控訴したが福岡高裁で棄却され、上告も受理されなかった。
オ 違法判決後の状況
最高裁判所で違法判決が確定した後も、宝珠宗宝珠会の活動は続いている。「生命の作用」の教義は変わらないものの、科学的なものだという姿勢はとらなくなり、宗教団体として存続し、佐賀を本拠地として主に九州各地に被害者を出し続けている。
(2) アースハート、セントマザー
ア アースハートとは
株式会社アースハートは、上記泰道の幹部として活動をしていた野中邦子が平成9年頃独立して分派活動を行い、平成12年3月に設立した法人である。同社は、有限会社中部アースハート、NPO法人つくしの会(任意団体つくしの会)、宗教法人ひのもと、社会福祉法人太陽の丘、医療法人太陽の丘等複数の法人格と一体となって活動しており、これらの法人や関係個人を全体として便宜上「アースハート」と表現する。
アースハートは、愛知、九州を特に中心として全国各地で、「講習会に参加すれば、誰でも病気を軽減・治癒する『ハンドパワー』(呼称は、現在は『マインドパワー』に変更)を習得できる」などと謳い、受講生、会員を募る。入会後は、会員以外のものを勧誘し、新たにアースハートセミナーの受講契約を締結させる「覚醒」と称する行為を推奨し、「覚醒」をしなければ病気が治らないなどとしばしば説明し、「覚醒」と病気などの治療を結びつけることによって、病気を治したいといった会員の切実な思いにつけこんで、その者らを通じて新たに会員を獲得していた。
イ アースハートのエセ科学「ハンドパワー(マインドパワー)」
アースハートは、「ハンドパワーで、物質・細胞等を変化させることもできる。酒等の味を変えることもできる」と広言していたが、この味変えについては、テレビ局の取材で、野中邦子が味変えを実践したジュースの糖度が全く変わっていないことが糖度計の数字から明らかになった動画が存在する。
また、アースハートが発刊していた会報(会員に対して毎月発行する冊子)、書籍等には、「病気とは必ず原因があり、それを解明することにより絶対に治る」等と具体的な治せる病名等も掲載し、現役の医師がその効果を宣伝するという手法をとり、ハンドパワーが実在し、病気を治す効果があるということを広言していた。特に、アースハートは、「大阪府立産業技術総合研究所」での実験でハンドパワーが科学的・医学的に証明されたとしてその実験内容を紹介する書籍を発行し、会報にも大きく宣伝していたが、同研究所に調査したところ、単に実験室と脳波計などの機器を貸したにすぎず(利用料を支払えばだれでも利用できる)、同研究所が実験をした事実はないし、実験結果は把握していないことが判明した。
さらに、日本統合医療学会や、日本補完代替医療学会において、会員である医師らがハンドパワーに関する報告を行ったことを大々的に宣伝し、ハンドパワーが各学会において正式に承認されている医学的に正当な施術であるかのように広言していたが、実際には報告、発表内容の正当性等に厳正な審査が行われたわけでもなく、正式に承認されているとはいいがたい状況にあることが判明しているし、定評ある科学・医学の専門雑誌にハンドパワーが取り上げられたと大々的に会報にとりあげたりもしていたが、単に広告料を支払って取り上げてもらう種類の雑誌であったことも判明した。
このように、アースハートがハンドパワーの科学的・医学的根拠として出したものは全てにおいて裏付けがないことが明らかとなり、結局アースハートは民事裁判においても何一つ科学的根拠を証明することはできなかった。
ウ アースハートに対する裁判と違法判決
アースハートに対しては、平成23年12月、アースハート被害対策弁護団(福岡)は、株式会社アースハート、野中邦子外役員1名を被告として不法行為に基づく損害賠償請求を福岡地方裁判所に提訴した。
平成26年3月28日、裁判所は、被告らの主張するパワーについて、「客観的な科学的・医学的な裏付けがない」と明確にその主張を退け、アースハートが虚偽の内容を含んだ詐欺的な宣伝をすることにより各活動を行っていること、「覚醒」などというシステムを用いて、会員に対し、新規会員を獲得しなければ病気が治らないとの強い心理的圧迫を加えることによって各活動を拡大させていること、アースハートの各活動は、泰道のシステムを模倣する形で行われていたものであって、各地裁や高裁において違法と判断された後も継続して行われていたことなどを認定し、アースハートの活動は、有機的に関連した一連のシステムのもとに、セミナーの受講契約という不当に高額の金員を取得することに向けられたものであって、社会的相当性を逸脱したものと判示し、その責任を全面的に認め、アースハートの控訴は棄却され、上告も受理されなかった。
エ アースハートからセントマザーへの事業譲渡
アースハートは、平成26年7月に関係者が株式会社セントマザーを設立し、セミナー等のハンドパワー関連事業の一切をセントマザーに事業譲渡し、その後はセントマザーとして活動しているが、野中邦子がパワーを伝授する最高の力を持った立場の者のままで何ら変わっていない。
ただ、アースハートは、創設時には受講パンフレットに明確に「宗教ではありません」と記載していたのであるが、途中から関連法人に宗教法人を取得したこともあってかその文言は消され、さらに現在のセントマザーの会報では、野中邦子は「なぜにマインドパワーの施療はあらゆる病に効果的なのか、一言で言うならマインドパワーとは全人的(ホリスティック)な医療である」などと述べ、その内容は非科学的なものになった。
オ 違法判決後の状況
アースハートと同様の活動を「セントマザー」として依然として続けており、被害者も後を絶たない。セントマザーでは、「ハンドパワー(マインドパワー)」で病気が治るなどの効果、説明は変わらないものの、それが科学的・医学的根拠のあるものだという姿勢は薄れているようである。
2 エセ科学(医療系)の問題
エセ科学を利用した泰道、アースハートは、人々の健康でありたいという願望、他人を健康にさせてあげたいという希望、あるいは自分自身や家族の病気からの解放の切望につけこみ、実体のない概念である「生命の作用」「ハンドパワー(マインドパワー)」をあたかも科学的根拠のあるもののように見せかけ、その習得のための多額の入会費用、受講料等の金員を詐取するという手法で多大な被害を生み出してきた。病気、傷害を持つ人たちの「健康になりたい、病気を治したい」という純粋な願いに付け込んで利用し、貴重な時間を奪い、多額の金銭をつぎ込ませるだけでなく、西洋医学を否定して適切な医療を受ける機会を奪い、果てには生命の危険を招くことがあるので極めて深刻な問題である。
泰道もアースハートも、エセ科学を発端として大々的に会員獲得を行い、民事裁判でも最高裁判所で違法判決が確定し、その科学的・医学的根拠は何ら証明できなかったのであるが、現在はその路線を科学から非科学に変更し(変更せざるを得なかったのであろう)、それでも被害が根絶できない現状は非常に悩ましく、対策に頭を抱えているところである。